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アメリカ在住者の海外資産に関する報告義務について(実践編:FBAR)

アメリカ国外に資産を持つアメリカ在住者がファイルする必要のあるForeign Bank Account Reporting (FBAR, FinCEN Form 114)のファイリングの仕方についてまとめてみました。ファイリングが簡単な割に、ファイルしなかった場合のペナルティが重いので対象となる人は忘れずにファイルしましょう。

1.基礎知識

1.1 報告が必要な人

詳しくは「理論編」として別の記事に書きましたが、ざっくりいうとアメリカ市民およびアメリカ居住者で、アメリカ以外の国にある金融口座の残高の総額が$10,000ある人が対象の制度です。

A United States person that has a financial interest in or signature authority over foreign financial accounts must file an FBAR if the aggregate value of the foreign financial accounts exceeds $10,000 at any time during the calendar year.

(https://www.fincen.gov/report-foreign-bank-and-financial-accounts)

個々の口座が$10,000を超えるかではなく、総額で超えるかどうかで報告義務の有無を判断するので、例えば残高が$9,000の口座Aおよび残高が$1,100の口座Bという2つの口座をアメリカ国外に持っている人の場合、残高の総額が$10,000超となるので口座A・口座B双方について報告する必要があります。また、口座A、口座Bに加えて残高がマイナスまたはゼロの口座(口座C)があった場合には、この口座Cも報告が必要となるようです。

After determining the value of the account, as described below, if the value results in a negative (minus) value, enter zero (0) in item 15, “Maximum account value.”

(https://www.fincen.gov/reporting-maximum-account-value)

1.2 Form 1040での記入事項

報告先はIRSではなくTreasury Departmentの法執行機関であるFinCEN (Financial Crimes Enforcement Network:金融犯罪取締ネットワーク)となりますが、アメリカ以外の国にある金融口座の残高の総額が$10,000超あるか否か、その口座がある国はどこかについてだけはIRSにも報告する必要があります。

この報告は以下の通り、Form 1040のSchedule Bで行います。

1.3 FBARのファイリングの仕方

E-Filingが原則です。紙ベースでファイルしたい場合はFinCEN’s Regulatory Helplineに電話をして承認を受ける必要があるようです。

You must file the FBAR electronically through the Financial Crimes Enforcement Network’s BSA E-Filing System. You don’t file the FBAR with your federal tax return.

If you want to paper-file your FBAR, you must call FinCEN’s Regulatory Helpline to request an exemption from e-filing. See Contact Us below to reach this Helpline. If FinCEN approves your request, FinCEN will send you the paper FBAR form to complete and mail to the IRS at the address in the form’s instructions. IRS will not accept paper-filings on TD F 90-22.1 (obsolete) or a printed FinCEN Form 114 (for e-filing only).

(https://www.irs.gov/businesses/small-businesses-self-employed/report-of-foreign-bank-and-financial-accounts-fbar)

1.4 インストラクション

その他、詳細なインストラクションは以下のページにあります。

2. 準備編(情報収集)

2.1 金融機関・口座の情報

まず必要なのは、海外に保有している金融機関・口座の情報および残高情報です。入力する情報は以下の通りです。スムーズに入力を終えるためには、入力をし始める前にすべての口座の情報を手元にそろえておくとよいでしょう。

  • Financial institution name (金融機関の名称)
  • Address (金融機関の住所)
  • Account number (口座番号)
  • Maximum account value(年内で当該口座の残高が一番高かった時の額)

2.2 為替レート

ドル建てでの計算になるので、外貨建ての口座の場合ドルに換算する必要があります。Department of Treasury の下部機関であるBureau of Financial Serviceが発表している年末(12月31日)のレートを使います。

In the case of non-United States currency, convert the maximum account value for each account into United States dollars. Convert foreign currency by using the Treasury’s Financial Management Service rate (http://www.fiscal.treasury.gov/fsreports/rpt/treasRptRateExch/treasRptRateExch_home.htm ) for the last day of the calendar year. If no Treasury Financial Management Service rate is available, use another verifiable exchange rate and provide the source of that rate. In valuing currency of a country that uses multiple exchange rates, use the rate that would apply if the currency in the account were converted into United States dollars on the last day of the calendar year.

(https://www.fincen.gov/reporting-maximum-account-value)

ちなみに、上記の引用文中に引用されているページは「Page not found」と表示されてしまいます(サイト内がリデザインされたためのようです)。実際の為替レートはこちらから入手可能です。→ https://fiscal.treasury.gov/reports-statements/treasury-reporting-rates-exchange/ 

2.3 最新のAdobe Acrobat Reader DC

PDFを読むための無料ソフトウェア、Acrobat Reader DCが必要になります。最新版はhttps://get.adobe.com/reader/ からダウンロードできます。もっともBSA E-Filing SystemのページにもAcrobat Reader DCのダウンロードへのリンクがあるのでこれについてはあまり心配しなくても大丈夫です。

3. 入力・報告編

3.1 BSA E-Filing Systemのページへ行く

前置きが長くなりましたが、早速始めてみましょう。まずは、BSA E-Filing Systemへ行きます。

ここでは、(1)PDFをダウンロードしてオフラインで入力後、アップロードをするか、(2)オンライン上で直接入力するか選べます。

口座数が少ない人は直接入力したほうが楽かもしれませんが、私は毎年PDFをダウンロードして利用しているので、以下はPDFを利用したやり方です。

3.2 PDFのダウンロード

まずは、File PDF FBARのボックス内にある「Prepare」をクリックしてフォームをダウンロード、パソコン内の任意の場所に保存します。

3.3 入力開始

保存したファイルを開いて入力開始です。尚、最新のAcrobat Reader がインストールされていない場合はファイルが開かずに最新版をダウンロードするように促されるのでその場合はBSA E-Filing Systemページに戻って、Acrobat Readerをダウンロード・インストールします。

1ページ目はとりあえずスルーします。保存するときや、署名・ファイリングをするときにこのページに戻ってきます。尚、締め切りに間に合わなかったときにはファイリングが遅れた理由をプルダウンメニューから選べるようになっています。

2ページ目は、住所、氏名、ソーシャルセキュリティー番号等を入れるだけなので、特に迷うことなく入力できると思います。

3ページ目から入力開始です。尚、3ページ目は一人用の口座の場合です。ジョイントアカウントの場合は4ページ目に入力画面があります。基本的な入力内容は同じですがメインアカウント主の情報もあわせて入力する必要があるようです。

16の「Type of account」はプルダウンメニューから「Bank」「 Securities」 「Other」のいずれかを選択できます。

2つ以上ある場合は、右上の⊕ボタンをクリックするとフォームが追加できます。間違ってフォームを必要以上に増やしてしまった場合には⊖ボタンで削除できます。以下、フォームを一つ追加して、Type of accountに「Bank」および「Other」を選んだ場合の例ですが、「Other」を選ぶとType of accountの右側のボックス(最初はグレーになっています)に入力できるようになったことがわかります。

3.4 サイン

入力が終わって最後のページまで行くと、署名をするためには最初のページに戻るようにとのメッセージがでています。

1ページ目に戻ったら、「Validate」ボタンを押して記入漏れやエラーがないかチェック、「Sign the Form」ボタンを押してフォームに署名、「Save」ボタンを押して署名入りの最終版を保存します。

尚、Save the Formボタンを押した後に最後のページに戻ると、無事署名が済み日付が入ったことが分かります。

3.5 アップロード

署名、保存が終わると「Ready to File」ボタンが押せるように変わります。このボタンを押すとファイリングのページへ移動します。

以下が「Ready to File」ボタンを押したときの移動先であるファイリング用のページのスクリーンショットです。下記のように、氏名のほかに、Eメールアドレスと電話番号を記入する必要があります。最後に署名済みのPDFファイルをパソコン内から選択し、「Submit」ボタンを押して終了です。

ファイリング終了後、数分もしないうちに「FBAR Submission Accepted」というタイトルのメールが来ます。その後2日程度経ってから「Fincen Acknowledgement」というタイトルのメールが来ます。この2通目のメールを受け取るとファイリング終了となります。尚、この「Fincen Acknowledgement」メール内に、BSA Identifierの番号が記載されています。提出済みのFBARを何らかの理由で訂正したい場合にはこのBSA Identifierが必要となるようなのでこの2通目のメールは大切に保存しておきましょう。

4. 報告義務を怠った場合のペナルティ

最後に、報告義務を怠った場合のペナルティですが、結構重いペナルティが課せられます。ペナルティの内容はnonwillful violations(故意ではない違反)か willful violations(故意による違反)によって変わってきます。

故意でない場合は、一口座当たり$10,000 (インフレ調整されるので現在は$12,921)を超えない額がペナルティとして課せられるそうです。故意の場合はこの額がグッと上がります。

U.S. Code citationCivil Monetary Penalty DescriptionCurrent Maximum
31 U.S.C. 5321(a)(5)(B)(i)(故意ではない違反)Foreign Financial Agency Transaction – Non-Willful Violation of Transaction$12,921
31 U.S.C. 5321(a)(5)(C)(故意による違反)Foreign Financial Agency Transaction – Willful Violation of TransactionGreater of $129,210, or 50% of the amount per 31 U.S.C.5321(a)(5)(D)
(出所:https://www.irs.gov/businesses/small-businesses-self-employed/report-of-foreign-bank-and-financial-accounts-fbarPage Last Reviewed or Updated: 23-Sep-2020

尚、私のお気に入りポッドキャスト(The BitcoinTaxes Podcast)内のエピソード(2019年5月22日放送:FBAR and FATCA Filing for Crypto Trader)によると、Form 1040のSchedule Bの質問に「No]と答えたことによってwillful violations(故意による違反)とみなされた例があるそうです。参考までに関連する記事を探してみました。

ということで、報告義務がある人はForm 1040のSchedule Bで「Yes」をチェックし、FBAR (FinCEN Form 114)で正直に残高を申告することを強くお勧めします。

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