
今回は、アメリカ在住者の海外資産に関する報告義務について取り上げます。とりあえずは理論編としてIRSのサイトにある情報を紹介します。実践編(FinCENのサイトからのFBARのファイリングおよびTurboTaxを使った場合のTax Returnのファイリングの仕方)については独立した記事にしたのでそちらもご覧ください。
1. 概論:報告義務の種類
1.1 残高の多少にかかわらず申告の義務がある事項
アメリカ国外の金融口座(financial account)にfinancial interestがある場合は金額にかかわらず、Form 1040のSchedule BのPart III. Foreign Accounts and TrustsのLine 7a)にその旨を申告する必要があります。とはいえ、該当者はここでは「YES」と答えることが必要なだけで、金融機関の名前や残高等は申告する必要はありません(以下の2に該当する場合にはじめて金融機関の名前や残高等の申告が必要になってきます)。
以下、Schedule Bのインストラクションからの引用です。
Line 7a–Question 1. Check the “Yes” box if at any time during 2020 you had a financial interest in or signature authority over a financial account located in a foreign country. See the definitions that follow. Check the “Yes” box even if you aren’t required to file FinCEN Form 114.
(https://www.irs.gov/instructions/i8938)
金融口座(financial account)の定義もSchedule Bのインストラクションに含まれていますが、銀行口座、証券会社口座だけでなく解約払戻金の規定のある保険(insurance policy with a cash value)なども含みます。
Financial account. A financial account includes, but isn’t limited to, a securities, brokerage, savings, demand, checking, deposit, time deposit, or other account maintained with a financial institution (or other person performing the services of a financial institution). A financial account also includes a commodity futures or options account, an insurance policy with a cash value (such as a whole life insurance policy), an annuity policy with a cash value, and shares in a mutual fund or similar pooled fund (that is, a fund that is available to the general public with a regular net asset value determination and regular redemptions).
(https://www.irs.gov/instructions/i8938)
1.2 一定以上の残高がある場合に提出する必要があるフォーム
通常の個人のタックスリターンで海外資産の報告義務といった場合には、「FinCEN Form 114(いわゆるFBAR) 」および「Form 8938」の2つのフォームの提出義務を指すのが一般的だと思います。これらを提出する必要があるか否かは、当該税制年度内の海外資産の総額によって変わってきます。以下、この2つのフォームに関して詳述していきます。
参考:TurboTaxで海外資産の報告について入力をし始めると、最初に以下のフォームを当該税制年度内にファイルしたことがあるか聞かれるので、人によっては以下のフォームもファイルする必要がある場面もあるようです。ただしTurboTaxにも「less common」と記載されており一般的に利用するフォームではないこと、私もファイルしたことがないことからここでは割愛します。
- Form 3520 (Annual Return To Report Transactions With Foreign Trusts and Receipt of Certain Foreign Gifts)
- Form 3520-A (Annual Information Return of Foreign Trust With a U.S. Owner)
- Form 5471 (Information Return of U.S. Persons With Respect To Certain Foreign Corporations)
- Form 8621 (Information Return by a Shareholder of a Passive Foreign Investment Company or Qualified Electing Fund)
- Form 8865 (Return of U.S. Persons With Respect to Certain Foreign Partnerships)
2. FinCEN Form 114 (Report of Foreign Bank and Financial Accounts: FBAR)
2.1 報告義務がある人
アメリカ市民、アメリカ税法上のResident (Resident Alien)、trusts、estates、domestic entities等(以上、総称してUS Person)で、アメリカ国外の金融口座に一定以上の残高がある人が対象となります。アメリカ税法上のResidentとは、グリーンカード保持者および米国実質滞在テスト (Substantial Presence test)の条件に合致する人を指します。
参考:米国実質滞在テスト (Substantial Presence test)についての詳細については割愛しますが、興味のある方はこちらをご覧ください。→ IRS: Substantial Presence Test。なお、F-1ビザの保持者等アメリカ滞在ビザの種類によってはForm 8843をファイルすることによってアメリカでの滞在日数が米国実質滞在テストの対象とはならなくなるので、留学生の場合は申告不要の人が多いと思います(参考:IRS: The Closer Connection Exception to the Substantial Presence Test for Foreign Students)
「一定上の残高」とは、レポートの対象となっている税制年度における海外にある銀行やその他金融口座の残高の合計が$10,000を超えたことが一度でもある場合(the aggregate value of those foreign financial accounts exceeded $10,000 at any time during the calendar year reported)を指します。
参考:IRS: Report of Foreign Bank and Financial Accounts (FBAR)
$10,000にカウントされるのは、アメリカ国外にある銀行口座、証券口座、貯蓄型生命保険や年金保険(Foreign-issued life insurance or annuity contract with a cash-value)等が主なものです。土地、外貨、貴金属等は報告の対象になりません。これについてはIRSサイトの次のページが見やすくまとまっています。→ IRS: Comparison of Form 8938 and FBAR Requirements
2.2 提出先
「FinCEN Form 114」は Department of Treasuryの法執行機関であるFinCEN (Financial Crimes Enforcement Network:金融犯罪取締ネットワーク)へ報告します。専用サイトへいって直接オンライン上で入力またはPDFフォームをダウンロードして入力、アップロードをするという形での提出となるので専用のソフトウェアは不要です。また、自分でやる場合には費用もかかりません。
報告事項は金融機関の名称、アカウント番号、住所、残高等のみで特に複雑ではないので、入力に必要な情報さえ揃っていれば、ちゃちゃっとできます。
具体的なファイリングの仕方については下記の記事に簡単にまとめたので、興味のある方は参考にしてください。
2.3 締め切り
タックスリターンの締め切り同様、税制年度の翌年の4月15日です。ただし、締め切り内に報告できなかった場合は自動的に10月15日に延長されるようです。
尚、2020年の収入に対する連邦税のファイリングおよび支払いは2021年4月15日から1か月間延長され5月17日になりましたが(注1)、FBARの締め切りは依然として4月15日のままです(注2)。ただし、締め切り内に報告できなかった場合は自動的に2021年10月15日に延長されるのは変わっていません。
(注1):Tax Day for individuals extended to May 17: Treasury, IRS extend filing and payment deadline
(注2):IRS reminds foreign bank and financial account holders the FBAR deadline remains April 15
3. Form 8938 (Statement of Specified Foreign Financial Assets)
3.1 提出する必要がある人
アメリカ市民、アメリカ税法上のResident (Resident Alien)、ジョイントリターンをするためにResident Alienのステータスを選択したNonresident alien、および特定の内国事業体(一定のdomestic corporations, partnerships, and trusts等のSpecified domestic entities)のうち、アメリカ国外に一定以上の財産を保有する者が対象となります。
参考:IRS: About Form 8938, Statement of Specified Foreign Financial Assets、IRS: Instructions for Form 8938
自然人の場合、一定の資産というのがいくらを指すのかは、以下の通りファイリングステータスおよび居住地(アメリカ国内か国外か)によって変わってきます。
| Single ・ Married Filing Separately | Married Filing Jointly | |
| アメリカ国内在住 | 税制年度末での対象資産の総額が$50,000超、または年内のいずれかの時点での残高が$75,000超の場合 | 税制年度末での対象資産の総額が$100,000超、または年内のいずれかの時点での残高が$150,000超の場合 |
| アメリカ国外在住 | 税制年度末での対象資産の総額が$100,000超、または年内のいずれかの時点での残高が$150,000超の場合 | 税制年度末での対象資産の総額が$400,000超、または年内のいずれかの時点での残高が$600,000超の場合 |
FinCEN Form 114同様、土地、外貨、貴金属等は報告の対象とならず、外国にある銀行口座、証券口座、貯蓄型生命保険や年金保険(Foreign-issued life insurance or annuity contract with a cash-value)等が主なものです。ただし、FinCEN Form 114よりも対象範囲が広めになっていて、FinCEN Form 114ではカウントしなかったものもここでは報告対象となっています。これについてもIRSサイトの次のページが見やすくまとまっています。→ IRS: Comparison of Form 8938 and FBAR Requirements
TurboTaxを使った場合のファイリングの仕方については下記の記事に簡単にまとめたので、興味のある方は参考にしてください。
3.2 提出先・締め切り
「Form 8938」はForm 1040に添付してIRSに提出します。従って、常にタックスリターンの締め切りと一緒で通常は4月15日ですが、上述の通り2020年に関しては締め切りが2021年4月15日から1か月間延長され、5月17日になっています。
4. 海外の仮想通貨取引所について
最後に、アメリカ国外の金融口座のなかにアメリカ国外の仮想通貨取引所が含まれるかについてですが、これに関するIRSのガイダンスはありません。
尚、仮想通貨の税法に関するお薦めPodCastとして別記事で紹介したThe BitcoinTaxes Podcast中、エピソード7(2019年5月22日放送:FBAR and FATCA Filing for Crypto Trader)によると、海外の仮想通貨取引所の口座も海外資産に関する報告の対象として考えるべきとする専門家が多いとのことです。
その理由としては、過去に仮想通貨取引所自体が自らをForeign financial institutionと宣言し、US Personの口座に関する情報をIRSに提供した例があるからだそうです(具体的には、それを行ったのはBitfinexだそうです。尚、Bitfinexは現在はUS Personが口座を開くことを禁じているそうです)。ちなみにBinanceも以前はUS Personも口座開設・取引が可能でしたが、途中で禁止する方向に方向転換しました(代わりに、アメリカ市民、アメリカ在住者向けにBinance USを開設しました)。なので、海外の仮想通貨取引所に口座を持っているアメリカ在住者は少数派になっていると思いますが、もしも海外の仮想通貨取引所に口座を持っている場合には、他の海外資産との合算した場合の総額が報告対象となる金額を超えないか確認し、超える場合にはきちんと報告をする必要があるようです。
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