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アメリカのIRA(個人退職口座)基礎知識:Traditional IRAとRoth IRAどちらがお勧め?

今回はTraditional IRAとRoth IRAのどちらを利用すべきかについて検討します。結論から言うと現在の年齢(定年まで何年残っているか)、収入レベル、401(k)も併用しているかどうか、将来的に日本に完全帰国する予定でいるか、そのタイミングはどれくらい先か等、様々な要因が関連しているので、「人による」ということになりますが、何を判断材料として決めていったらいいかについて書いていきたいと思います。

1. Traditional IRAとRoth IRAの違い

まずは前提となる知識の確認からです。 Traditional IRAとRoth IRAの違いは以下のようになります。

Traditional IRA Roth IRA
所得制限なし。自分または配偶者に労働所得があれば所得レベルに関係なく拠出できます。あり。所得が上がるにつれ、Roth IRAに直接拠出できる額が減り、一定上の所得を超えると直接の拠出は全くできなくなります。
年齢制限制限なし。 勤労収入がある限り拠出し続けることができます。
(注) 2019年までは70 ½歳までという制限がありましたが、SECURE Actによりこの制限は撤廃されました。
制限なし。勤労収入がある限り拠出し続けることができます。
所得税の支払い時期の先送り (拠出分はその年の所得ではないとされて、結果として所得を受け取った年の所得税の支払い額が減少)原則あり。但し、職場でのリタイアメントプランへの加入状況と収入のレベルによっては恩恵を受けれない(=Non deductibleになる)場合もあります。なし。Roth IRAに拠出してもしなくても、勤労収入があった年の所得税の額は影響を受けません。
引き出し時の税金・早期に引き出した場合のペナルティ [contributions (元本部分) およびearnings (運用で増えた部分) ]
引出し時に59 ½歳未満の場合  所得税・ペナルティどちらもかかります(例外規定あり)

≪引出し時に59 ½歳以上の場合≫ ペナルティがかからなくなります。所得税については、原則としてcontributionsもearningsも課税されます。但しNondeductible IRA(After taxのお金を拠出)の場合は、Roth IRA同様、元本部分は無課税、増えた分のみ課税対象となります。
[contributions (元本部分)]
いつでも、どんな理由でも、contributions部分は所得税もペナルティも払わずに引き出せます。

[earnings (運用で増えた部分)]
引出し時に59 ½歳未満の場合  Earningsの引き出し時には所得税・ペナルティどちらもかかります(例外規定あり)

≪引出し時に59 ½歳以上の場合≫ Earnings部分にもペナルティがかからなくなります。所得税については、Roth IRAの口座開設から5年未満か、5年以上経過しているのかによって異なります(下記3参照)。
最低限の引き出し額 (Required Minimum Distribution: RMD)72歳になる年の4月1日までに1回目のRMDを引き出す必要があります。翌年以降は年末までに引き出していきます。徐々に引き出し始める必要があります。
(注)2019年までは70½歳でしたが、SECURE Actにより72歳に変更になりました(誕生日が1949年7月1日以降の場合のみ)。
なし。

参考:(i) IRS: Retirement Topics – IRA Contribution Limits; (ii) IRS: Retirement Topics – Required Minimum Distributions (RMDs)

2. Traditional IRA の利点

繰り返しになりますが、Traditioanl IRAの利点は所得税の支払い時期の先送りができるという一点につきます。なので、とにかく当面の所得税の額を減らしたいという人向けの制度です。

なお、投資で増えた分(利子、配当金、キャピタルゲイン)に対する所得税についても支払い時期が先送りになります。これはIRAを利用しなかった場合(投資で増えた年に所得税を払う)と比べると利点と言えますが、投資で増えた分についても引き出しのタイミングによっては無課税となるRoth IRAと比べると劣る部分となります。

実務上の問題として、Traditional IRAはRoth IRAと異なり収入のレベルにかかわらず拠出できるというメリットもありますが、Backdoor Roth IRAの手法をとればRoth IRAでも所得制限は回避できるので、結局は労働所得があれば誰でも間接的にRoth IRAに拠出ができるということになります。ということで、このメリットの重要性はさほどないようです。

3. Roth IRAの利点

Roth IRAの利点は(1)引き出しのルールに柔軟性があること、(2) 引き出しのタイミングによっては、投資で増えた分(利子、配当金、キャピタルゲイン)に対する所得税がかからないという2点があります。

まずは、引き出しのタイミングと、所得税・ペナルティの有無に関してまとめると以下のようになります。

年齢 Roth IRAの口座開設から5年未満での引き出し   Roth IRAの口座開設から5年以上経過後の引き出し
最初からRoth IRAに直接拠出した元本部分 (Regular (direct) contribution) 全年齢 ペナルティなし、所得税なしで引き出し可。
Roth IRAに入金後に運用で増えた部分 (Earning) 59 ½歳未満 引き出しには原則として所得税及び10%のペナルティがかかります。但し例外規定あり。
59 ½歳以上 所得税がかかります。ペナルティなし。 ペナルティなし、所得税なしで引き出し可。

以下、Roth IRAのメリットです。

3.1 元本(contributions)の部分は所得税もペナルティも払わずにいつでも引き出せる

いつでも、どんな理由でも、元本(contributions)の部分は所得税もペナルティも払わずに引き出せます。

なので、利子が無課税で増えていくことを考えあわせると金銭的に余裕がなくて定年前に引き出す可能性があるという人であっても、いざというときのためのお金(Emergency Money)として普通に預金するよりは、Roth IRAに入れた方がグッとお得です。

3.2 条件を満たせば投資で増えた分の引き出しも非課税

投資で増えた分(利子、配当金、キャピタルゲイン)についても、年齢(59 ½歳以上)および保有期間(Roth IRAの口座開設から5年以上経過)の両方の条件を満たせば、所得税の支払いが免除されます。

3.3 最低限の引き出し額の設定なし

Roth IRAには、 最低限の引き出し額 (Required Minimum Distribution: RMD) が設定されていません。言い方を変えると、自分で引き出し時期を決める自由、必要になるまで引き出さない自由があります。

これに対し、Traditional IRA、Traditional 401(k)およびRoth 401(k)等にはRMDが設定されていて72歳になる年に引き出し始める必要がでてきます。

3.4 退職時の税の柔軟性

上記の4.1~4.3全てと関連しますが、Roth IRAからの引き出しは非課税となるため(投資で増えた部分については条件を満たした場合)、Social Security Benefitの受取額、Traditional IRAや401(k)等からの引き出し後に、Roth IRAからの引き出し額をうまく調整することによって退職時の全体的な所得税額をより適切に管理できるようになる可能性があります。 たとえば、課税所得が課税範囲の上限に達するまではTraditional IRAや401(k)から引き出しを行い、それ以降はRoth IRAからの引き出しを使うことによって税率が上がるの防ぐことができるようになります。

4. Roth IRAの注意点

4.1 Roth Conversionや401(k)からのロールオーバーする場合の注意点

Traditional IRAからRoth IRAにコンバートした場合や401(k)からロールオーバーした場合は、元本以外の部分の引き出しに関して、59 ½歳以上の人が所得税なしで引き出し可能となるタイミング(いつから5年のカウントを始めるか)についての起点が直接Roth IRAに拠出した場合と若干異なるので注意が必要です。

    年齢 コンバージョン、ロールオーバーまたはRoth IRA開設から5年未満での引き出し  コンバージョン、ロールオーバーまたはRoth IRA開設から5年以上経過後の引き出し
Traditional IRAからのコンバージョンまたは401(k)からロールオーバーした部分 元本部分 全年齢 ペナルティなし、所得税なしで引き出し可。
Roth IRA入金前に(Traditional IRAまたは401(k)の中で)増えた部分 59 ½歳未満 引き出しには原則として所得税及び10%のペナルティがかかります。但し例外規定あり。
59 ½歳以上 所得税がかかります。ペナルティなし。 ペナルティなし、所得税なしで引き出し可。

具体的にいうと、Traditional IRAからのコンバージョン(Backdoor Roth IRA)またはTraditional 401(k)からロールオーバーした部分については5年のカウントはRoth IRAの口座を開設した年からではなく、コンバージョン/ロールオーバーした年から始まります。

Roth 401(k)からのロールオーバーの場合は、既にRoth IRA口座がある場合には既存のRoth IRAの口座が開設された時から5年経っているかどうかで判断しますが、Roth IRA口座がなく新たに口座を開設したうえでロールオーバーした場合はロールオーバーした年からカウントが始まります。ということで、ロールオーバーに関してはRoth 401(k)を開始した年はリセットされてしまい関係なくなります。参考までに、Roth IRAにロールオーバーせずにRoth 401(k)から直接引き出す場合には Roth 401(k) を開設してから5年未満か5年以上経過しているかで判断されるようです。

参考:(i) IRS: Publication 590-B (2020), Distributions from Individual Retirement Arrangements (IRAs), (ii) The Finance Buff: Mega Backdoor Roth and Access To Your Money Before 59-1/2; (iii) Investopia: Roth IRA Withdrawal Rules; (iv) Investopia: Must-Know Rules for Converting Your 401(k) to a Roth IRA; (v) Virtus Wealth Management: Its’ Time to Understand the Roth 401k Rollover 5-Year Rule

ということで、Roth 401(k)をゆくゆくはRoth IRAにロールオーバーしようと考えている人は早めにRoth IRAの口座を開設しておく方が良さそうです。また、完全帰国前にRoth IRAを全ておろしてしまおうと考えている人は、帰国の5年前にはRoth Conversionの可否を考えた方がよいようです。

尚、一部のみを引き出す場合には元本部分を先に引き出したとみなされるので、Roth IRA口座を解約して一括で引き出す等の事情がない限りあまり関係ない知識ではあります。

4.2 日本に完全帰国する予定のある人が注意すること

Roth IRAを解約して一括で引き出すことを検討する場面として、日本に完全帰国という場面が考えられます。

アメリカにいる間に開いたIRAの口座を国外に移住後にも保持できるかは証券会社によって対応が異なるので必ずしも閉じないといけないわけではありません(どこの証券会社なら大丈夫かについては未確認です)。

とはいえ、日本に帰国後(税金上日本の居住者になった場合)には日本の税法に従うことになりますが、その場合Roth IRAは所得税の対象になる可能性が高いそうです。もっとも、税務署の正式な見解が発表されているわけではなく掲示板やブログ等でみた限りの話です。

ということで、税理士さん等、専門的な人の見解がないかなと探していたところ、YoutubeでCDH会計事務所さんの以下の投稿を見つけました。

Roth IRAは帰国前に現金化しないと駄目!
YouTube: Roth IRAは帰国前に現金化しないと駄目! by CDH会計事務所 (投稿日:2020年7月11日)

上記のビデオでは、日本で引き出した場合であっても元本部分は無課税で、Earning部分のみ課税されるとの説明がされているので、元本部分について二重課税ということはなさそうですが、Roth IRAの利点を100%活かしきれないということのようです。

掲示板やブログ等では、日本で引き出した場合にはTraditional IRAもRoth IRAも同じように扱われて、Roth IRAの場合は元本部分が二重課税になることを心配している投稿もあるので、念のため他にも探してみたところ同様の説明を見つけました(税理士さんのではありませんがフィナンシャルプランニング系の会社のようです)。

ROTH IRAを日本に帰国してから引き出した場合、米国では既に課税済みでも、日本で課税される可能性はありませんか?

Roth IRAを日本で引き出した場合は一時所得となりますので、元本の部分は現時点では課税はされません。注意点としてはアメリカでは利益部分は非課税となりますが、日本ではRoth IRAの制度がないので、利益部分でも課税されます。ですので日本での引き出しはメリットが無くなるのでご注意ください。

insurance110: IRAの基本 オンラインセミナーQ&A

今後日本のルールが整備されたり正式な見解が発表されたりすると事情が変わってくるかもしれませんが、将来的に日本に完全帰国する予定がある人は気にかけておいて帰国前には最新情報を確認した方が良いトピックだと思います。

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